プロジェクト紹介レポート
広域交流型オンライン社会科地域学習
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東広島市の小・中学生が全国各地の小・中学生とデジタルを通して一緒に学ぶ「広域交流型オンライン学習」は、物理的に離れた教室間をデジタルを用いてつなぐことで、児童生徒の主体的・対話的で深い学びを創造することを目指し、広島大学と東広島市教育委員会が連携して実施している取り組みです。
東広島市・広島大学 Town & Gown Office「コモンプロジェクト」認定事業でもあり、2023年(令和5年)10月からは内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主宰する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の事業にも採択され、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」の社会実装をめざし、研究が進められています。
今年度は、全19回の授業が計画されており、東広島市内の小・中学校で計15回実施される予定です。
今回のオンライン学習は「現代社会の見方・考え方-より良い話し合いはデジタルか、それとも対面か!?-」をテーマ(単元)に、7月10日(木)に実施されました。
オンラインで東広島市内の志和中学校、福富中学校、豊栄中学校、河内中学校、北海道の洞爺湖町立洞爺中学校、鹿児島県の徳之島町立尾母中学校(全6校計109名の中学3年生)、さらには教育支援センター、スペシャルサポートルーム※も参加しました。
- スペシャルサポートルーム (SSR):
東広島市や広島県教育委員会が設置している、不登校や集団での学びに馴染みにくい児童生徒のための、校内フリースクールのような居場所のこと。
参加している中学校は、広島県・北海道・鹿児島県といった地理的な距離や地域性の違いだけでなく、クラスの生徒数にも大きな差がありました。例えば、志和中学校では2学級42名であるのに対し、尾母中学校では1学級2名と、学校ごとに規模や環境が異なっていました。
授業の進行は、広島大学大学院人間社会科学研究科の川口広美准教授と草原和博教授が担当し、オンライン学習の強みを存分に発揮した授業が展開されました。

教室から授業配信する川口先生と草原先生
授業は「地域の避難所にペットを連れて行くことに賛成?反対?」という川口先生の問いかけから始まりました。川口先生と草原先生の語りは、まるでテレビ番組の司会者のように軽快で、生徒たちの意見交換を活発なものにしていました。
生徒たちが発表するアイデアや意見は、柔軟なカメラワークによりオンラインで共有され、デジタル空間を通した一体感のある授業が作り上げられていました。
こうした円滑なオンライン学習を支える手厚い技術的サポートも、この授業の重要なポイントです。
通信機材を運用して授業をサポートするのは、広島大学大学院人間社会科学研究科のスタッフのみなさんです。スタッフは、大学教員だけでなく学生も参加しており、それぞれの参加校で授業支援や技術支援を担います。
このサポートにより、オンライン学習の弱点である機材トラブル等にも迅速に対応がなされ、授業が円滑に進行されました。

スタッフのみなさんによる技術支援
続いて、川口先生と草原先生の問いかけを通して生徒たちが様々なアイデアや意見をまとめる大変さを体験した後、兵庫県内で実際に取り組まれている2つの相対する合意形成の事例(芦屋市の住民と市長・教育長による対面の「対話集会」と、加古川市で活用しているデジタルの意見収集システム「Decidim」)が紹介されました。
市民と市長の「対話集会」のページ
加古川市版Decidim(デシディム)
ここでもオンライン学習ならではの強みが発揮されました。
なんと芦屋市の職員が、今回のオンライン学習に特別ゲストとして登場され、「対話集会」の詳細を解説されたのです。
また加古川市で活用している「Decidim」については、市の担当者による解説動画が流され、より理解を深めることができました。
芦屋市は、市民と市役所の双方向のコミュニケーションによって市を共創することを重んじています。
一方で、加古川市はデジタルを用いたスマートシティ化を進め、多くの市民から意見を集めることを目指しています。
この芦屋市と加古川市の職員のお話から、両市が合意形成のために重視する点がそれぞれの取組に反映されていることが分かりました。
これらの事例から対面とデジタルによる合意形成には、それぞれメリットとデメリットがあり、それらの比較を通して、効率と公正のバランスを取ることが合意形成の鍵であることを、生徒たちは実感している様子でした。

オンライン授業に登場する芦屋市の職員
授業の最後に、生徒たちはグループワークを行い、学んだ事を活用していました。グループワークで取り組む課題は、授業の出発点だった「地域の避難所にペットを連れて行くことへの賛否」について、半年で自治体内の合意を形成するための計画を立てることでした。
あるグループは、対面とオンラインの集会を毎月交互に行う、といった計画を立て、また別のグループは、対面開催に加え、より多くの人が参加できるようにオンラインでも中継するといった計画を発表しました。
多くのグループが授業内容をもとに、対面とデジタルを使い分けた計画を立てていましたが、その中にも地域ごとの特色が表れていました。洞爺中学校の生徒は、観光客が多いという地域の特性から、観光客からも意見を集められるようにオンラインを重視した計画を立てており、発表を聞いた東広島市の生徒たちは新鮮に受け止めていました。
学校規模の違いだけでなく、それぞれの地域の持つ特性によって答えが変わることを、生徒たちは実体験として学んでいました。


異なる地域がつながり意見を深める生徒たち
取材中は、授業の熱気に圧倒されるばかりでした。これほど活発な授業が展開されている背景には、事前に綿密に整理された課題設定に加え、生徒の意見をうまく引き出す進行役の先生の問いかけの工夫や、オンライン学習を支える技術的なサポート体制など様々な要素が組み合わさっていることを強く感じました。

授業風景
今後も大学と教育委員会が協力する東広島市ならではの「広域交流型オンライン学習」によって、多くの生徒が最先端の授業で学びを深めることに期待をしています。

取材に訪れた志和中学校
コモンプロジェクトとは ?
東広島市の社会課題と大学の学術研究をマッチングさせた社会課題解決を目指すプロジェクト。
- 東広島市と大学が「共通(COMMON)」の課題に取り組む姿勢
- お互いが先生役の「顧問(こもん)」となって教え合いながら社会課題の解決を目指す姿勢
この2つの言葉を掛け合わせた造語。

2022年掲載「コモンプロジェクト : 広域交流型オンライン社会科地域学習(広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI))」はこちら
- 取材者: 広島大学先進理工系科学研究科 宮田 智史
- 取材日: 2025年7月10日
東広島市・広島大学 Town & Gown Office
- Mail: hhc hiroshima-u.ac.jp
- ※メールアドレスをクリックすると開くコモンプロジェクトに関するお問い合わせフォームもご利用いただけます。
- Tel: 082-424-4457









