学生によるレポート
2025年3月9日(日)に広島大学フェニックス国際センターMIRAI CREA (ミライクリエ) にて、「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」キックオフシンポジウム が開催されました。
広島大学では、2024年11月に文部科学省の「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」に採択され、日本人学生と外国人留学生による多文化共修を、今後 Town & Gown 構想で連携している東広島市及び呉市におけるフィールドワークも取り入れる中で行い、学生の地域課題についての理解を深めていくこととなっているとの説明が冒頭にありました。
そうした中で、このシンポジウムでは、産官学が連携して取り組んでいる「多文化共生型まちづくり」の先進事例についての紹介が行われ、私は海外で実施されている2つの事例を拝聴してきました。
1つ目の事例は、アメリカ・ポートランド州立大学で行われている大学と地域のコラボレーションについてです。
ポートランド州立大学では、まちづくりにおける大学と自治体との連携をより効果的なものにするために、「コミュニティベースドプロジェクト」を卒業までに必ず履修し、多様性と平等性についても学ぶ必要があり、広島大学も同じような形でこの学びをモデル化していると思っている、と登壇者のDan Vizzini (ダン・ヴィッツィーニ)さんは仰いました。

ダン・ヴィッツィーニさんによる事例発表の様子
この学習の推進にあたっては、学生を対象にした「コミュニティ・エンゲージメント※センター」の存在が大きいようです。
※「コミュニティ・エンゲージメント」とは:地域社会との関わりの中で課題を発見して解決を試みる活動
このセンターは、学生がコミュニティにおいて参画したいプロジェクトを見つけられるようにするためのサポートの役割を担っているとのことでした。 学生と参画したいプロジェクトのパートナーのマッチングを丁寧に支援することで、「まちづくりに興味があるけれど何から始めればよいかわからない」という学生でもまちづくり参画への第一歩を踏み出しやすくするとともに、学生を受け入れるプロジェクトのパートナーの理解も得やすい環境を整えているのだと理解しました。
また単にまちづくりを行うだけでなく、多文化共生の社会を推進していくための取り組みも行っているそうです。例えば、別の国や地域からの移民、移住者がポートランドで安心して生活できるよう、食の安全性について理解してもらう機会を設けたり、また違う文化で育った人たちが互いの文化を学び理解しあえるように、芸術作品にふれる機会、それぞれの文化特有の祝い事を共に祝う場を用意したりしているとのことでした。
様々な文化的背景を持つ人々の違いを認め、その違いに対してお互いに関与し合い、祝福し合うことが多様性を尊重するうえで大切だと、Dan Vizziniさんは説明されました。
2つ目の事例は、デンマークにおける「Quintuple Helix (クインタプルヘリックス)」についてです。
クインタプルヘリックスとは、欧州を中心に研究が進むイノベーション創出のための協力モデルの1つで、(1)産(産業界)、(2)官(行政)、(3)学(学術機関)、(4)民(市民)の4つのセクターに、(5)環境(地球環境、自然環境)を加えた5つの主体が連携し、持続可能な社会の実現を目指す考えであると、文化翻訳家でジャーナリストコーディネーターのニールセン北村朋子さんが説明されました。

ニールセン北村朋子さんによる事例発表の様子
実例としてあげられた同国のロラン市では、環境問題を考え持続可能な社会を作る力を養うため、小学生から資源利用シミュレーションを用いて資源の活用法を学んだり、エネルギーの過去の蓄積データ等をいつでもウェブ上で確認できたりする、と実際に画面を共有してくださいました。
また、持続可能な社会を作るため、環境問題だけに取り組むのでなく、「Balance Denmark (バランスデンマーク)」という国の政策があり、例えば、都市の一極集中をやめ、都市機能を地方へ実際に移転させるといったことを計画したり、現時点では先細りしている交通インフラの新たな可能性を探ったりされているとのこと。
都市にいなくても深い学びができるといった対策等を国がやっているからこそ、自治体も大学も参画していける。更には、企業、そして市民も「楽しそう」と感じるため、積極的に参画するようになるとのことです。
今回の講義で一番心に残った言葉があります。それは、1つ目の事例でDan Vizziniさんがおっしゃっていた「ポートランド州立大学と地域のコラボレーションは35年かけて実行してきたが、これからも続いていく。広島大学と東広島市も同じで、まちづくりは短期的な問題ではなくその道のりは大変長いものであるということを覚悟し、心に留めて欲しい」という言葉です。
人がその土地で生活していく限り、まちづくりに終わりはありません。環境問題や貧困など、すぐに改善したい問題も、やはり時間をかけないと解決することは難しいのだと改めて思います。
ここ東広島市をこの先何年も持続可能な地域にするためには、広島大学と東広島市の連携が永続的に続くよう努力することが求められるとともに、長期的な視点を持ちつつも双方が着実に問題解決に取り組み続けることが大切だと感じました。
- 取材者: 広島大学 生物生産学部 生物生産学科 岡峰 望有
- 取材日: 2025年3月9日
東広島市・広島大学 Town & Gown Office
- Mail: tgo hiroshima-u.ac.jp
- ※メールアドレスをクリックすると開くお問い合わせフォームもご利用いただけます。
- Tel: 082-424-4457