プロジェクト紹介インタビュー
三津湾の特性を生かしたカキ養殖の効率化・高付加価値化
東広島市・広島大学Town & Gown Officeが行っている取り組みの1つにコモン(COMMON)プロジェクトがあります。
コモンプロジェクトとは東広島市の社会課題と広島大学の学術研究のマッチングを行い、社会課題解決を目指すプロジェクトです。
今回はそのプロジェクトの1つである、「三津湾の特性を生かしたカキ養殖の効率化・高付加価値化」について、プロジェクトに携わる東広島市産業部農林水産課の岡本さん、平木さんと、同市総務部経営戦略チームの門出さんにお話を伺いました!

Q. このプロジェクトの背景となった課題について教えてください。
岡本近年、海水温の上昇によってカキ(牡蠣)が育たず、漁業関係の方々は大きな被害を受けています。
市として漁業者の所得安定につながる取り組みが求められていました。
そこでカキ養殖の効率化・高付加価値化というプロジェクトが立ち上がりました。
Q. なぜ三津湾がプロジェクトの舞台となったのでしょうか?
平木三津湾は、最大でも水深15メートルほどと浅く、海水がきれいなことが特徴です。きれいな海で育まれたカキは、検査の厳しいEU諸国に向けて輸出することができます。一方で栄養の少ない湾ということでもあります。実際、三津湾のカキは小ぶりなうえ、広島湾のカキが2年で収獲されるのに対し、三津湾のカキは収獲に3年を要します。
こうした実状から、きれいな海という価値を維持しながら効率よく養殖を行うことが、三津湾では強く求められていました。

Q. このプロジェクトではどのような取り組みを行っているのでしょうか?

平木本プロジェクトは、東広島市産業部農林水産課と広島大学統合生命科学研究科の小池 一彦 教授が協力し、また、地元の漁業協同組合や企業の支援をいただきながら取り組んでいます。具体的な取り組みとしては、
- SPALOW (Solar Powered Air-Lift for Ocean Water)の開発
- 三津湾のデータ分析
の2つが挙げられます。
SPALOWは海底付近の低温かつ栄養豊富な海水を牡蠣筏(カキいかだ)まで汲み上げることでカキの成長を促進させる装置で、当初は小池先生が東広島市との共同研究で開発し、その後、広島大学が別の大型予算を得て高機能化したものです。
昨年のSPALOWを活用した実証実験では、夏の高水温を緩和し、カキの身入りが例年の1.5倍程度のむき身重量の向上が見られています。
また、本プロジェクトでは三津湾内の海水を測定しデータ化しています。加えて、現在、SPALOWに通信機能を搭載し、水温や装置の稼働状態をスマホなどの端末でリアルタイムに監視できるシステムを構築しました。
水温の正確な情報はカキの幼生を天然採苗する際にも重要です。このシステムを生かして三津湾生まれのカキの幼生を効率よく捕る試みも始めています。
スマート農業としてIoT化が普及しつつある農業に対し、海を相手にする漁業ではIoT化が困難であるため、この取り組みがスマート漁業※の成功例になることを目指しています。
- スマート漁業 :
IoTやAIの技術を活用して漁業の効率化や持続可能性を向上させる取組のこと


Q. このプロジェクトを東広島TGOのコモンプロジェクトとして取り組んでいる利点はありますか?
平木市と大学の協力によって、プロジェクトをより効果的に進められることです。
元々、小池先生は三津湾で研究をされていましたが、コモンプロジェクトとして取り組むことで、三津湾のより広い範囲で研究していただくことが可能となりました。
市としても小池先生が収集されたデータを活用することができるようになりました。まさにコモンプロジェクトが相乗効果をもたらしていると考えています。
Q. 最後に今後の取り組みと意気込みをお願いします。
平木SPALOWを活用した実証実験に加え、デジタル技術を活用した水産プラットフォームの活用により、漁業のスマート化を促進させることを目指します。
岡本本プロジェクトの成果を漁業者の方々へ、所得の安定化やカキ養殖の効率化にかかる解決策として提示できるよう、実績を積み上げていきたいです。

東広島市産業部農林水産課の平木氏
- 聞き手: 広島大学 工学部第一類 宮田 智史
- インタビュー実施時期: 2025年5月
東広島市・広島大学 Town & Gown Office
- Mail: hhc hiroshima-u.ac.jp
- ※メールアドレスをクリックすると開くコモンプロジェクトに関するお問い合わせフォームもご利用いただけます。
- Tel: 082-424-4457