イベントレポート : 広島大学スマートシティ共創コンソーシアム設立セレモニー

イベントレポート

2023年2月15日、広島大学、東広島市、住友商事株式会社、ソフトバンク株式会社、株式会社フジタ、三井住友信託銀行株式会社、中国電力株式会社、復建調査設計株式会社、ダイキン工業株式会社、株式会社サタケ、日産自動車株式会社および株式会社イズミは、「広島大学スマートシティ共創コンソーシアム」(以下「共創コンソーシアム」)を立ち上げ、記念講演および設立セレモニーを開催しました。 本記事では、設立セレモニーの内容についてご紹介いたします。

※当日の様子はダイジェスト動画からもご覧いただけます。

ダイジェスト動画

まちと大学が一体となった「新しい」まちづくり

設立セレモニーでは、最初に越智広島大学長、髙垣東広島市長、そのほか出席企業の代表者より一言ずつ挨拶が行われた後、Town & Gown Office室長でもある広島大学金子理事・副学長より「Town & Gown構想」について紹介がありました。

代表挨拶者

広島大学学長 越智光夫、

東広島市長 髙垣廣德、


株式会社フジタ代表取締役社長 奥村洋治、

復建調査設計株式会社代表取締役社長 來山尚義、

株式会社サタケ代表取締役社長 松本和久、

株式会社イズミ代表取締役社長 山西泰明

Town & Gown構想は、アリゾナ州立大学とテンピ市が行っているまちづくりがモデルとなっています。Town (まち)とGown(大学)が日常的、組織的な関係を構築。両者が互いのリソースを効果的に活用しながらまちづくりを推進することで、科学技術イノベーションによる地域課題の解決と、人材育成のための地域共創の場を形成することができます。

東広島市では、Town & Gown構想の前身「アカデミック・エンタープライズが駆動するサステナブル・ユニヴァーシティ・タウン構想」による活動が2019年度に開始。これまで広島大学と共にまちづくりに取り組むための基盤形成を行ってきました。
(詳細は沿革をご覧ください)

この取り組みに最初に賛同の声を上げられたのが住友商事株式会社です。2021年1月に包括連携協定を東広島市・広島大学と締結し、その後ソフトバンク株式会社、株式会社フジタとの連携もスタート。2022年3月には共創コンソーシアムを設立し、現在では、設立セレモニーに参加された7社を含む、合計12機関での共創コンソーシアムへと成長してきました。

「日本の地域から躍動させるため、大学と大学が立地する地域の自治体が持続可能な未来のビジョンを共有しながら、さまざまなイノベーションを社会実装し、地域課題を解決していくことを謳っています」と金子理事・副学長。SDGsやカーボンニュートラル、ポジティブピース などさまざまなビジョンを、産学官一体となって実現していくといいます。また、従来の一般的な産学官連携と異なる取り組みの特徴として、

①目指す社会インパクトの大きさ
②組織的なコミットメント
③ビジョンを共有したシステムアプローチ
④社会システム・社会インフラのR&D
⑤責任ある研究・イノベーションの実践

を挙げました。

簡単に定義すると、ポジティブピース (積極的平和) とは、"平和な社会をつくり、維持するために必要な態度、制度、仕組み"のことです。これは、IEP (Institute of Economics of Peace) の定義ですが、彼らは、情報、腐敗、資源配分などの指標に基づいて積極的平和を定量的に計測していくため、このような定義を与えています。より包括的な定義として、平和研究の創始者とされるヨハン・ガルトゥングが提唱した「積極的平和」という概念があります。「負の平和」が直接的な暴力 (戦争、武力衝突、物理的脅威など) がないことであるのに対し、「正の平和」は構造的な暴力 (差別、経済的不平等など) がないため、人間社会がその潜在能力を発揮できる条件が揃っていることです。「ネガティブ」が暴力の不在を意味するのに対し、「ポジティブ」が平等、調和、正義などの存在を意味するのはそのためです。

「共創コンソーシアムの設立によって、民間企業から提案されたものは、瞬時に大学・市で共有・検討されて、実行に移されるという体制が整う。デジタルトランスフォーメーションやエネルギー、モビリティなどさまざまな要素が連動しながら地域全体を良くしていくことができる」と期待を込める金子理事・副学長。東広島市が策定した「次世代学園都市構想」にも触れながら、多くのステークホルダーを巻き込み、活動を大きくしていきたいと今後の展望を述べました。

産学官のリソースをフル活用して事業を推進

続いて参画企業であるソフトバンク株式会社の海保明子氏より共創コンソーシアムの活動内容について紹介されました。

共創コンソーシアムでは、Society 5.0やカーボンニュートラル、さらにはデジタル田園都市国家構想などの持続可能な未来社会実現のために、民間企業の持つノウハウと経営資源、大学の知、行政機関のコミットメントを融合。広島大学のメインキャンパスである東広島キャンパスを活用して、スマートキャンパス・スマートシティの形成に資する活動を行い、その成果を周辺地域に社会実装することでイノベーションを創出していきます。

「イノベーションの活気に満ち、全ての世代、ジェンダー、国籍の人が共存し、常にアップデートし続けるまちづくり、人づくりを、社会、地域、大学の課題解決とともに、先導的、先進的、かつ大胆に推進しながら、100年先まで誇れる未来づくりをポジティブピースの先行モデルとして、広島から日本全国及び世界に向け発信してまいります」と海保氏。共創コンソーシアムでは5つの分科会に分かれ、産学官による実装研究が進められる予定です。海保氏からは各分科会が目指す世界観についても説明がありました。

「まちづくり分科会」では、まずイノベーションが起きる仕組みづくりに取り組みます。広島大学をスモールタウンに見立てて、目指すまちづくりに必要な仕組みを試験的に導入。そして、具体的な課題の洗い出しや地域への展開施策を検討していきます。この過程で重要となるのが国際的な視野です。海外から優秀な研究者を誘致し、頭脳循環を起こすために必要な、居住空間の整備やアントレプレナー支援制度、都市システムのDXなどにも取り組みます。

「DX分科会」では、2023年4月にリリース予定の人とシステム・サービスをつなぐ「TGOアプリ」の展開、充実化を図っていきます。将来的に地域課題解決に資するサービスや公的個人認証、CRM連携などを実装することを視野に入れ、まずは広島大学の学生向けアプリとして展開します。連携サービスや展開エリアを今後増やしていくことで、東広島市のスマートシティ化を促進する重要なツールとなるでしょう。また、デジタル技術を利用したサイバー空間と実際の物理的な空間を双子のように連動して管理するための「デジタルツイン技術」の準備も進めています。360度カメラやBIMデータを利用してサイバー空間を構築し、そこにリアルタイムの現象を乗せていくことで、よりビジュアライズされた都市空間の把握や、都市環境変化のシミュレーションなどが可能になります。既存の建物をサイバー空間に用意し、建設予定の建物を追加することで、新しいまちの全体像をよりリアルに把握していくことにも取り組みます。

「モビリティ分科会」では、MaaS基盤を構築し、誰もが快適で便利に暮らせるまちづくりを目指します。今後予想されるモビリティ分野の技術革新を踏まえ、人・物の移動を最適化するために、まずはAIカメラによる学内の人の移動データ収集に取り組みます。

「カーボンニュートラル・エネルギー分科会」では、政府目標よりも20年早い2030年までのカーボンニュートラル達成に向けて、知的資源・科学技術を持つ広島大学と幅広い事業分野の企業が協働。TGOアプリの連携基盤機能を通じて分散したエネルギーリソースの効率化を図り、持続可能なエネルギー、地産地消型のカーボンニュートラル社会の実現を目指します。

海保氏の説明には多岐にわたる事業内容が並び、各企業の強み・特色がうかがえます。「今後、共創コンソーシアムの活動にご興味を持っていただくため、市民の皆様向けのイベントや意見交換会、企業の皆様には広く参画を呼びかける活動を進めてまいります。スマートキャンパス、スマートシティの構築に向けて、皆様と一緒になって活動が推進できれば」と海保氏は締めくくりました。

Town & Gown構想に寄せる各者の思いと期待

金子理事・副学長、海保氏の説明の後は、参加者による公開座談会を実施。一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事の南雲氏をモデレーターとして、共創コンソーシアムの展望などについて話を伺いました。

まずは、各参画団体の役割について南雲氏が質問。山西社長 (株式会社イズミ) は自社が働く社員の誇りと喜びを大切にしていること、日本各地で地域の生活を支える分野を担っていることに触れながら、共創コンソーシアムに参加する意義について話しました。「市の役割はビジョンを明確にすること。本取り組みは、市民の理解なしには実現しない」と述べたのは髙垣市長。共創コンソーシアムが目指す「Well-being」「SDGs」「Positive Peace」といったビジョンを市民にしっかりと伝えていきたいと語りました。これに対し、越智学長は「大学の役割は、教育・研究に基づく社会実装だ」と発言。東京ドーム53個分の広大な敷地と、約20,000人が活動する「仮想スモールタウン」として、海外から多くの留学生を受け入れる「世界の窓」としての広島大学の可能性に期待を寄せました。続いて、奥村社長 (株式会社フジタ) 、來山社長 (復建調査設計株式会社) は、それぞれの事業の強みを生かした関わり方について、松本社長 (株式会社サタケ) は多数の企業が協働することで生まれる社会への影響力についてコメントしました。

2巡目として、南雲氏は各参画団体の構想に向けて描くビジョンについて質問。まずは山西社長 (株式会社イズミ) が「このまちに来てよかったと感じてもらえるよう、生活産業を通じて構想を実現していきたい」と回答。髙垣市長はこれまでのビジョンの解像度の低さを省みながら、「我々が最終的に目指すのはWell-beingだ」とTown & Gown構想のキーワードを改めて掲げました。越智学長もそれに賛同し、効率を求めるばかりでなく、森の中を歩く、趣味の世界に浸れるなど「ゆとりのある」生活ができる社会が理想だと回答。「産学官の強固な結びつきを生かして住んでよかったと思える次世代の学園都市を目指したい」と述べました。一方、奥村社長 (株式会社フジタ) は、「防災」という建設会社ならではの視点を提示。「安心して住めるまち」を基本としながら、「広島」の海外での知名度を生かして世界中の人材を集めたいと期待を込めました。また、來山社長 (復建調査設計株式会社) は、低速の電気自動車を利用した公共交通サービス「グリーンスローモビリティ」をキーワードに挙げ、時代の変化に応じた社会インフラを追求したいと語りました。「住んで楽しいまち」と回答したのは松本社長 (株式会社サタケ)。自社の社風を例に、「(住んでいて) 楽しいという思いが、自ら考えてより良いまちをつくる雰囲気につながる」と締めました。

限られた時間の中ではありましたが、各社の代表者ならではの取り組みにかける熱い思いが飛び交い、共創コンソーシアムへの期待が感じられる座談会となりました。

共創コンソーシアムは、今後本格的に始動し、産学官による新しいまちづくりに挑戦していきます。大学を実証実験のフィールドとした、大規模プロジェクト。各参画団体のコラボレーションによって、どのようなまちができあがるのか、注目が集まります。Town & Gown Officeも共創コンソーシアムの事務局として、市民や学生など一般の方も巻き込みながら、イノベーションの創出、学術研究、人材育成などの国際的な展開を推進し、日本の地域社会、そして世界の発展に寄与することを目指します。

開催概要

 

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